「ここはどこですかーー!?」


お使いのためにこの山に入り、余裕で2時間はたっているだろう。
父さんの話では30分もあれば抜けられるだろうと言うことだったのに。

これは俗に言うあれだろうか、『ま』から始まり二文字目が『い』で最後が『ご』で終わるあれだろうか。
情けない・・・実に情けない!こんな年になって迷子なんて笑えるわけがない!(今年で18歳になりました。ぴっちぴっちですよ)
しかも日が暮れてきたとくれば、もうお手上げだ。先ほどから道なんて草ボーボーで、かろうじて何かが通った跡があるだけ。(それを人は獣道と言う)

打ちひしがれて、ここでのたれ死ぬのかなぁと絶望しながら地面にうずくまっている私の鼻に何かの香りがふわっと漂ってきた。
何だろうと香りをたどって行くときれいな薄紫の花の咲いた木があった。しかも一本じゃなく、いっぱい。先ほどよりも強い香りがしたが、不快ではなくほんのり甘い香りはなかなかに私の好みで、先ほどまでのどん底の気分なんて嘘のように浮上していた。


「えっとー・・・これって何て花だろう?」


喉まで出かかっている気持ち悪さに、絶対思い出す!と自分の思考に没頭し、周りのことなんて全く眼中になかった。


「よーねぇちゃん。こんな場所でうろついてると危ないぜ?」

「そうそう。悪いやつらがいるかもしれないだろ?」

「親切な俺たちが家まで送ってやるよ」


野太い声に気が付き、顔を上げると周りにはいかにも山賊という格好の男たちが3人おり囲まれている。
いくら人恋しく、家まで送ってやると言われたってこんなやつらについていくわけはない。しかも、親切な人は自分で自分のことを親切なんて言わない!(下心がすけすけだ)


「け、結構です。間に合ってます」


断わりの返事を返し、後ずさると山賊Aが私の腕を掴んできた。
その手を必死で振り解こうとするが全く放してくれる様子はなく、逆に笑われている。


「無駄だよ、ねぇちゃん。そんなんで逃げれるとでも思ってるのか?」

「いやっ!放して!放してよ!!」


めちゃくちゃに腕を振り回していると、掴まれていない方の腕が山賊Aの顔に辺り血が出てきた。


「てめぇ人が優しくしてりゃつけ上がりやがって!もう許さねぇ!こっち来やがれ!!」


いつ優しくなんてしていたのかは不明だが、そんなとこ突っ込んでいる余裕もなく、腕を掴まれたままズルズルと引っ張られていく。
もう駄目だ!と諦めかけた時、いきなり声がした。


「別に無視してもよかったんだけど、気が向いたから助けてあげるよ君」


何と辺りを見回した私が再び山賊たちを見ると、そいつらは全員地に伏している。
どうなったのかなんて全然分からずぽけっとしていた私の前に声の主だと思われる人物が現れた。
第一印象は黒。あと包帯。なんてふざけたことしか思い浮かばなかった。よく見てもその印象は訂正されず、忍びなのかな?ということをプラスしただけだ。
何とも不気味な格好で、忍者服からのぞく部分はほぼ包帯で覆われていて、唯一見えている右目はニヤッと細められ感情を読むことは出来ない。


「あれ?目開けたまま寝てるの?それとも怖すぎて声も出ない?」

「っ・・・大丈夫です!―――えっと、これはあなたが助けてくださったんですよね?」

「うんそう」

「ありがとうございました。本当に助かりました」

「いえいえ、どういたしまして。それにしても君、こんな時間にこんな場所にいちゃ襲ってくださいって言ってるようなもんだよ。道にでも迷ったかい?」

「あ、い、いえ、あのですね・・・その・・・」

「図星かーそんな迷うような山じゃなかったような気がするけど、まぁ、いいだろ。乗りかかった船ってことで近くの里まで送っていってあげるよ」


ものすごく情けないし恥ずかしいけど、これを逃したらここから出られないような気がするのでお願いするしかないか・・・
私の大事なものが音を立てて崩れていく・・・


「お願いします。ご迷惑おかけします」

「了解っと」


って、えええぇ!!


「ちょ、何ですかこの体勢!」


この体勢とは横抱きのことだ。こんなこっ恥ずかしいこと生まれて初めてされた!(一生経験したくなかったけどね!)


「何って、君が歩くよりこっちの方が早いからね。まぁ少しの間我慢してて」


送ってもらう方としては文句なんか言えるわけもなく(心の中ではいっぱい言ったけど)身を固くしていた。


「この辺りでいいかな」


言葉と共に地面に戻され息をついた。
何とも心臓に悪い体勢だったな・・・


「あ、ありがとうございました。いつかお礼に・・・って私恩人さんの名前も聞かずにすみません!」

「んー名前か・・・まぁいいか、私は雑渡昆奈門」

「雑渡さんですね。私はといいます。絶対お礼に伺います!」

「楽しみに待ってるよ。それじゃあ気をつけて、もう一人で山の中に入らないようにね」


雑渡さんは薄紫の花を私の手に乗せ、現れた時と同じように一瞬で消えてしまった。
白馬の王子様ではなかったけれど、私を救ってくれた黒服包帯の忍者さんに心臓はいつもより速い速度で動いている。
これは俗に言うあれだろ『は』から始まり『つ』『こ』と続き『い』で終わるやつなんだろう。いつか絶対にお礼に行って、この思いを打ち明けようと私は貰った花に誓った。







「初恋の感動」


(あっ!思い出した、この花ライラックだ!)










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20091101企画『花の色は』様提出
20091103up