088:木枯らしが吹く日に





寒い!
今年は暖冬ってお天気おねーさんが言ってたじゃないか!
この寒さやばいです。下手したら去年よりか寒いんじゃないかな!?

掌と掌をこすり合わせてみたり、はーっと息を吹きかけてみたりしたけど一向に手は暖まる気配はない。
手袋を忘れてしまった私の手はしもやけ一歩手前という色になっている。
元々冷え性な私は、冬にはいつも『ちょっ、あんた何枚着てんの!』やら『雪だるまのようだ』だなんて必例極まりないことを言われ続けているぐらいには完全防備しているにもかかわらず、油断し、昨日暖かかったから今日も大丈夫だろうと(私的には)比較的薄着で登校してしまったものだからこんな羽目に陥っているのだ。
は寒がりなんだからちゃんと防寒していきなさいよ』と言っていた母親のいうことを聞いていればよかった。(今さら後悔しても遅いんだけどね)


「やばい、学校に登校途中に女子高生凍死!?なんて新聞にのったらどうしよう・・・」


一人で登校しているので、もちろんこれは独り言。
口だって動かさないと凍りつきそうで、取り合えず余計な動きとかもしながら体をあっためることに専念している。
はたから見れば挙動不審な変な奴だろうけど、寒すぎて背に腹は代えられないってやつです。(恥じらいなんて当の昔にゴミ箱にポイッしましたよ)

と、まぁそんな私に近づける勇者なんてそうそういないだろうと思っていたけど、その勇者は現れたようだ。

後ろから肩を叩かれて振り向くと、長身のクラスメイトがいた。


「・・・・・・」

「私、超能力者じゃないから何言いたいのかわかんない。とりあえずおはようさん水戸部くん」


水戸部くんは私の言葉に困ったような顔で頷いた。
元々デフォルトで困り顔なのにそれ以上困られると私が悪いような気がしてくる。
そんな困った顔をしているのは私の言葉のせいなんだろうけど、本当にわからないんだもんしょうがないよね。
水戸部くんが喋っているとこなんて見たことがないし、声も聞いたことがない。同じバスケ部の人たちは話さなくても言いたいことが分かるというすごい能力の持ち主たちだけど、生憎私にはその能力は備わってなかったようだ。(むしろ備わってないのが普通だよね)


「そんでどうかしたの?」

「・・・・・・」


うむ、やっぱりわかんない。別に水戸部くんが嫌いとかじゃないけど、むしろ色々やさしいし顔もいいから好きの分類だけど言いたいことがわかんないのは不便だな。


「って言うか私かなり挙動不審だったのによく声(?)かけられたね?」


思いっきり頷かれた。


「もしかして、変な動きしてたから心配してくれたとか?」


再び頷く水戸部くんは困り顔じゃなく、ほほ笑んだ。
・・・っっ、かっこいいじゃないか!これだから顔のいいやつは!


「・・・そりゃどうもです」


内心の動揺を悟られないように出来るだけ平常心を心がけて返事をすると、彼はあろうことか首をこてっと傾けたのだ!その仕草は可愛い女の子がしたら可愛いのであって、やたらめったら身長の高い男子高校生がやったってかわいいわけ―――・・・あるだろう!!

―――何て破壊力だ、体はでかいくせに小動物並みの可愛さを保有しているなんて反則だと思います。

いやいやいや、私壊れすぎだから。ちょっとタンマ、今すぐいつもの私再起動するから。


「寒いね!ほら、寒すぎてちょっと変な動きしてたんだよ!」


とりあえず、間を持たせるために変な動きの理由を言いながら真っ赤な手を前に出してぶらぶらしてみると、水戸部くんは何かを考えだしたみたいだ。
返事のない(いつものことだけど)彼の目の前でいつまでも手を晒していてもしょうがないし、余計しもやけに近づいてしまうのでポケットにでも直そうかとひっこめかけた掌を水戸部くんの手が捕まえた。水戸部くんの手は暖かくて大きくて私の手とは違うんだなと一番最初に頭の中を過っていった。


「じゃなくて!何!?急にどうしたの水戸部くん?」


掴んだ手をそのまま、ポケットに直された。私の制服のポケットではなく彼のポケットに彼の手と一緒にだ。

意味がわからなくてフリーズした私にさっきのほほ笑みより、もっと優しくてフワフワした笑顔をした水戸部くんは『行こ』とでも言うような視線を前にやって歩き出した。
もちろん手をつながれている私は歩くしかなく彼と並んだ歩いて行く。


水戸部くんの言いたいことがなんとなくわかったり、つないだ手がいやじゃなかったり何か今日はおかしな日なのかもしれない。それと、大っきらいだった寒い日もそんなに嫌いじゃないような気がしてきた。帰りも寒いからつないでくれるとうれしいなっていったらどんな表情するのかな?また、やさしい笑顔でうなずいてくれるといいな。







木枯らしが吹く日に

学校に着いたらえらい騒がれた。バスケ部の人たちには泣いて喜ばれた、って言うか『水戸部をどうぞよろしく』『、よくやったわ!グッジョブ!』なんてことも言われた。何なんだこれ?







<<back




20091102:マイナー夢サーチ2周年企画様提出
20100602:up