ホワイトニューイヤー







えらい寒いなぁと思っていたら、雪がちらほらと降ってきている。
私はちょっと空を仰いでから早足で目的地に向かうことにした。


「江神さーん。初詣行きましょ!」


西陣の下宿、江神さんの住処に突撃した第一声目がこれである。
今は夜の11時過ぎで、普通ならお宅訪問するには非常識な時間帯ではあるが、我らがEMCの部長は苦笑いだけで許してくれたみたいだ。


ちょお気はやないか?初詣ゆうてもまだ年明けとらへんで」

「大丈夫ですって、神社でお参りするぐらいにはちょーど年明けてますよ」

「はーには敵わんなぁ」

「おっ今日は私の勝ちですか?これはみんなに報告しやなあかんは」

「何ゆうてんのや、俺はいつも負けてばっかりやゆうのに」


入り口でひとしきり挨拶のような会話をしてから江神さんは「上着取ってくるは」といって、いったん奥に引っ込んで行った。


「待たせたな。それじゃあ行こか」

「はい」


外へ出ると、来るときよりも雪が降っていた。
この調子で降ると明日の朝には雪が積もっていそうだ。雪が積もると交通機関が止まってしまったりするので困るが、幸い明日は1月1日、元旦なので出かける人はそういないだろうと思われる。


「結構降ってきたな、雪」

「そうですね。ホワイトクリスマスならぬホワイトニューイヤーですね」

「何やそれ。初めて聞いたは」

「当たり前ですよ。私が今、考えたんですから」


そこで、江神さんに噴出された。
笑われるのは釈然としないが、江神さんの笑顔を見たのでよしとすることにした。のだが、


「江神さん。何時まで笑っとるんですか」

「悪かった。謝るからそぉむくれやんといてくれ」

「別にむくれてません」


本当に拗ねているわけではないけど、その場所に立ち止まって拗ねたふりをしていると江神さんは困ったなーという顔をしている。


「ほんまに俺が悪かった。どうしたら機嫌直してくれるんや」


これ以上、江神さんを困らすのはかわいそうだと思い一つだけ要求をして許してあげることにした。


「しゃーないですから笑ったことは許してあげます。ただし、神社でお守り買ぅてください」

「そんなんで機嫌直るんやったらお安い御用や。―――仰せのままにお姫様」


最後に芝居がかった口調で言った一言と共に私の手をとって歩き出した。
その時、私は手袋をしていることを後悔する(ちょっとだけ)。二人とも手袋をしていなければ一つのポケットに大きさの違う二つの手なんていうお約束ができたかもしれないのに、という考えが浮かんで消えた。


「思ったより空いてますね」

「そんな大きい神社ちゃうし、年明けるまでまだ後3分あるからな」

「んーあと三分かー」

「それがどうかしたんか?」

「いえ、もう今年も終わるんやなーってしみじみ思ってただけです」

「そうやな、今年も色々あったからな」


本当に今年も色々あった。遊びに行った島で殺人事件があったり、そのことが原因でマリアが家出しその先でまた事件に巻き込まれたりと色々あった。たぶん、一生忘れられない1年になったことは確かだ。
私が思いにふけっている間に年が明けたらしく、江神さんが新年の挨拶をしてきた。


「あけましておめでとう。今年もよろしゅうな」

「はい、あけましておめでとうございます。こちらこそよろしくお願いします」

「新年の挨拶も終わったとこでお参りしに行こか」

「そうですね」


私たち二人は神社の入り口からお賽銭箱の前まで移動し、お参りした。
神様を信じているかと問われるとイエスと言えるわけじゃないけど、こうして習慣のように毎年お参りはする。
手を合わせ、目をつぶって今年も江神さんの隣にいられますようにと願って、それと今年は誰も悲しい思いをしませんようにとわりと本気で念じてみた。
視線を感じてふっと横を向いてみると江神さんの視線とぶつかった。


「えらい真剣に何願とったんや?」

「えーっと、秘密です。ゆったらありがたみがなくなりそうなんで」

「けちやな。―――そうや、俺の願いは気にならんか?」

「教えてくれるんですか?」

「教えたってもええよ。ただし、タダやないけどな」

「私のは教えませんよ」


自分の願いをゆうのはちょっと恥ずかしくなって、絶対言いませんとアピールしてみた。


「ゆぅんがそんな嫌やったら、それ以外のもんでええで」

「それ以外のものって?」


江神さんの「これや」と言う声が聞こえた瞬間、唇に何か暖かいものが触れた。
私がキスされたと気付いたのは、江神さんの唇が離れていってからだ。


「っ・・・まだええってゆってませんけど」

「ん?いややったんか?」


その聞き方は卑怯だと思う。私が絶対に嫌なんて言うはずないことをわかって聞いているのだから。


「別に嫌やありませんけど、いきなりでビックリしました。―――それで、御代払ったんですから教えてください」

「そうやな、今年もの隣におられるようにって願ったんや」


江神さんは言うと同時にまたキスをしてきた。
頭の中で「私も同じですよ」と言いながら、江神さんの背中に腕を回しぎゅっと抱きついた。

きっと今年も良い年になるだろうと確信する。だって江神さんがいれば私はずーっと幸せでいられるのだから





<<back




後書き
江神さん初書きなんですけど、とてつもなく偽者だ・・・
新年早々これでいいのか!?私!!
2008/1/3