嗚呼、何でこんなことになってしまったんだろう・・・
私は一度も不運委員会には入ったこともないし、自重なんて『何それ?おいしいの?』ぐらいにしか思ってない某4年生とかじゃないから目立たず自己主張せずに忍んでいたのに・・・
きっとこれは神様の気まぐれなる悪戯に違いない。ただし悪意がてんこ盛りな・・・






ことの始まりは学園長にお使いを頼まれたことだ。内容は金閣寺の和尚さんに届けものという何でもない簡単なお使いだった。
でもしかし、1年生でも出来るようなお使いを6年生の私に頼む時点で嫌な予感がしていたのも嘘ではない。

金閣寺に向かう道中、いつもと同じ道を通ろうとすると昨晩降った雨で土砂崩れがあったのか道がふさがっているではないか。こうなっていては通れないので私は仕様がなく遠回りをして行くことにしたのだが、そこはそこで戦中だった。
これより遠回りな道を行こうとすると一日では帰ってこれない距離になる。いくらなんでも金閣寺まで届けものという簡単なお使いで一日以上かかるというのは私のプライドが許さない。もしこのことが仙蔵にでもばれればあの人を馬鹿にしたような眼で(と言うか完全に馬鹿にしている!)高笑いされることは確定だろう。さらに文次郎には6年生として情けなくないのかとかうんたらかんたら説教されるに違いない。それだけはどうしても避けなければ。特に仙蔵!

そんなわけで戦真っ最中な中を突っ切って行くことにした。
出来るだけ誰にも気づかれないように気配を隠しながら進む中、ある程度の情報は手に入れていた。
どうもこの戦、タソガレドキ軍とエリンギダケ軍が戦っているらしい。今の情勢はタソガレドキ軍の優勢。って言うかぶっちゃけこのまま行くと普通にタソガレドキ軍の勝ちだろう。

まぁ、私に被害がなければどちらが勝っても負けてもいいのだけれども。

分析をしながらも順調に合戦上を通り、後ちょっとで抜けられるというところで私は運悪く忍者に見つかってしまった。
それで冒頭に戻るという感じかしら。本当に全くもってついてない!!


「うーん、君エリンギダケ軍の忍び・・・ってわけじゃなさそうだねー」


その忍者はここは合戦上だと言うのに、まるでどっかの団子屋にでもいるように余裕しゃくしゃくで間延びした言葉をかけたきた。
けれど話し方や内容とは違い、私は話しかけられるまでその忍者に気付かないほど気配の消し方は尋常じゃなかったし(これでも私は実践の成績はかなりいい)、何よりも醸し出している雰囲気は底知れない何かを窺わせる。

対峙しているだけなのに自然と私は冷や汗を掻くほどにだ。


「ええ、違いますよ。この戦とはまーったくこれっぽちも関係のないただの通りすがりの一般人ですのでお気になさらず仕事にでも戻ってください。それでは御機嫌よう」


震えそうになる声を何とか普通に絞り出し、それだけ言って通り過ぎようかとしたが、それはどっこいそんなに甘くなかったらしい。当り前だろうけどね!


「はいそうでか、それじゃあ御機嫌よう。ってそんなわけにもいかなくてねぇ。それにしても一般人って言うのは面白い冗談。うちの部下は優秀なのが多いはずなんだけど、誰一人として君に気付かなかったんだもん。君どこの子?」


「自画自賛ですか。それともうちの子自慢ですか?悪いんですけど私そんなのに付き合っているほど暇じゃないんですよね。それと『どこの子?』って聞かれても答えるわけないじゃないですか」


こんな時でも減らず口が叩けるのが私の長所なんじゃないか。と留三郎が投げやりに言っていたのを思い出す。


「ま、そりゃそうだよねー忍びたるものこんなことで口割ってちゃだめだしね。けど、この戦と関係ないんなら別に良いんじゃないの?ちなみに私はタソガレドキ軍忍び組頭の雑渡昆奈門だよ」


こいつ言いやがった。しかも組頭かよ。こんなんでいいのかタソガレドキ軍・・・

どう対処しようかと沈黙したままの私と自称タソガレドキ軍忍び組頭の雑渡昆奈門の間にもう一人忍者が現れた。
雑渡昆奈門よりはランクが下がりそうだけれど、それでもやっぱり私よりは強いだろう人物が増えたというのはかなりピンチです。最初のだけでもヤバいのにさらにもう一人ってどういうことだ!
生きて帰れたら保健委員でも入ろうかと現実逃避を始めた私の頭は、何かを叩いたような音で我に返った。

思わず向こうの二人を見ると後から現れた方が雑渡昆奈門にチョップかましていた。
あれ?仲間かと思ったら実は敵だったのかな?


「組頭いい加減戻ってきてください!あんたが遊んでる間色々と大変だったんですかね。ちったーこっちの苦労も分かってくださいよ!しかも、なに忍術学園の子いじめてるんですか!?可哀想でしょう!」


いきなり怒鳴り始めた彼に意味が分からずフリーズしていた私の方にくるりと顔を回して申し訳なさそうな表情をした。


「あーどうもうちの組頭が迷惑掛けたようでごめんね」


なんて言われて思わず反射で返事している私の顔は相当間抜け面をしているだろうな・・・


「い、いえ、こちらこそ忙しいところすいませんです。はい」


とか何とかテンパってわけのわからないこと言ってるんだから。


「あれぇ?君、私の時とずいぶん態度違うじゃない。酷いなー」


泣き真似をしながら言う雑渡昆奈門にまたチョップをかました部下さん(うちの組頭って言ってたから多分部下のはず)は再度私の方を向いて再度謝られた。(きっとこの人苦労人だ・・・)


「いえ、本当にいいですから。こんなところ通っている私が悪いんです。―――あの、それと一つ聞いてもいいですか?何で私が忍術学園の生徒だとわかったんですか?」


相手に敵意がないことを確認し、やっと混乱の渦から回復してきた私はどうしても引っかかっていることを聞いてみた。


「ああーそのことなら前に忍術学園に忍びこんだときに君のこと見かけていたんだよ。だから諸泉くんも知っていたの」


「ああーそうなんですか・・・ってあなた私のこと知っていたんなら何で『どこの子?』なんて聞くんですか!?」


答えてくれたのは苦労人の部下さんではなく、雑渡昆奈門さんだった。しかもアンタ私のこと知ってたんなら聞くなよ!こっちは泣きそうなぐらいビビってたんだからな!


「まぁまぁ、いいじゃないかそんなこと。それより君の名前は?君が私の名前知っているのに、私は君の名前知らないなんて不公平じゃないかな?」


「そんなことじゃないですよ!しかも不公平って自分から名乗ってましたよね!?」


「あれ、そうだったけ?そんな細かいこと気にしなくていいから、君の名前教えてよ」


ほんとマジで何なんですかこの人・・・
ほら、後ろで部下さんも呆れてるじゃないですか。

警戒していた自分がばからしくなって私は名前を告げた。


ですよ。これでいいですか?もういい加減行きたいんですけど」


ちゃんか。うん、良い腕してるよね。卒業したらうちおいでね。待ってるから」


これだけ言って雑渡昆奈門さんは去って行った。その後ろを部下さんは「待ってくださいよー組頭!」と叫びながら追いかけている。今さらだけど、そんな大声出して大丈夫なんだろうか?ここは一応戦場なんだけどなー
それにしても全く意味分かんないですけど。何なんですかあれ。って言うかこのことは記憶から抹消すべきなのか?


もぉどうでもいいっかと思考を放棄して、私は元の目的だったお使いを遂行しに金閣寺に向かった。
ほんとに疲れたなーもう絶対学園長の頼みなんて聞きたくない!





私、保健(不運)委員じゃないんですけど!








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後書き
雑渡さん好きすぎる///
2009/6/26