No.03
あの後、男二人で何やら話していると思ったら、朽葉が怪我をして帰ってきた。
しかもすごく不機嫌で。
何があったのか聞こうにも、「何もない」の一点張りでちっともまともに答えてなんかくれない。
(もう!怪我したら痛いんだから、もっと自分を大切にしてよね!!)
そんな気持ちで朽葉の方を睨むと、さすがに私がどんなに心配したかわかったのか気まずげに視線をそらした。
「・・・悪かった。でも、本当に大したことじゃないから」
あくまでも口を割る気のない朽葉にため息を一つ吐いて、しょうがないと笑った。
それで結局、その事件のことを知ったのは次の日のことだった。
何でも、鴇の代わりお侍さんに殴られた朽葉の仕返しに鴇と紺が妖怪になって懲らしめる。
省略するとこういう風なことだったらしい。
鴇くんはなかなかいいことを考える。私だったらそんなこと思いもつかない気がする。
お寺の庭を掃除しながら、私だったらどうするだろう?みたいなことを考えていると入口に籠が着けられた。
誰だろうと思いそちらに向かうと、出てきたのは佐々木只二郎さんだった。
佐々木さんは沙門さんの旧友らしく、私も1,2度会ったことがある。まぁ、会ったと言っても沙門さんに会いに来られているところにお茶を出しに行った程度なんだけれども。
「ああ、くんか。久しぶりだね、元気にしていたかい?」
声が出ない私は返事の代わりに頷いておく。
「そうかいそれは良かった。ところで、沙門はいるかな?」
また一つ頷き、沙門さんがいるだろうお堂のほうに案内した。
予想通りそこに沙門さんがいた。もちろん説法を読むふりをして居眠りしているけど。
沙門さんを起こすべく近づいていくと、後ろから肩に手を置かれた。
「私が起こそう」
手の持ち主は佐々木さんで(ここには私と沙門さんと佐々木様しかいないのだから、当り前なんだけれどもね)悪戯を思いついた子供みたいに楽しげな笑みをうかべている。
きっとあまりよろしくないことでも考えているんだろうけれども、寝ている沙門さんが悪いので素直に佐々木さんに起こすのをお願いした。
まずは沙門さんの体をゆすって「沙門そろそろ起きろ」といたって普通に起こそうとする。
けれども沙門さんは一向に起きる様子はなく、グースカグースカ寝ているものだから佐々木さんの笑みがさらに深まった。
佐々木さんが沙門さんの耳元で何か囁くと、体をゆすられ呼ばれても起きる様子の無かった沙門さんが飛び起きたのだ。小さな声で何を話したのかは知らないけど、きっとその“何か”は碌でもないことなんだろうな、と思う。
「な、な、なにぃ!?只二郎お前いきなり何をいいだすんだ!?」
「やっと起きたかい、沙門」
「と言うより何でお前がここにいるんだ?それとさっきの・・・」
「もちろん用事があって来たに決まっているじゃないか。さっきのことは嘘だけどね」
「帰れ。今すぐ帰れ」
「まぁそう言わずに用件ぐらい聞いてくれてもいいじゃないか」
目の前で繰り広げられる漫才もどきを眺めていると、沙門さんが私のほうを見てきた。
「はぁー・・・悪いが、お茶を私の部屋に持ってきてくれないかな」
何やかんやと言いつつも佐々木さんのお話を聞く気らしい。
やっぱり仲いいんだと思い、頷き、私はお茶を入れるため台所に向かった。
軽くふすまを叩き、開けるといやーな雰囲気が流れていた。
「知らんものは知らん」
「んー困ったねぇ、こっちとしてもそれじゃ困るんだけれども。くんは何か知ってるかい?」
沙門さんと話し込んでいた佐々木さんはいきなり私に話をふってくるものだから、てんぱってわたわたと変な動きをしてしまった。
「只二郎!は何も知らん!」
「そんなこと本人に聞いてみなくちゃ解らないだろう?」
さっきのいやな雰囲気が険悪ともとれる雰囲気に変わってきた。
私が原因かとおろおろしていると、さらに佐々木様が質問してきた。
「ついこの間のことなのだけれども、この辺りで妖騒動がなかったかな?確か火の妖だったと思うのだけれども」
火の妖の事件と言えば多分鴇の起こしたあの事なんだろうと思うけど、素直に答えていいものか解らず、沙門さんの方を見ると難しい顔をしている。
沙門さんは知っているはずなのに「知らない」の一点張りと言うことは、この事件は佐々木さんに話すとまずいことなのかもと思いなおし、首を横に振った。
「そうかい。君も答える気がないと・・・」
佐々木さんは相も変わらず読めない顔でニコニコ笑っていて、沙門さんは言わなかったのは良かったけど私に嘘つかせちゃって・・・みたいな微妙な顔しているし、居心地わるっ!
こんな場所はさっさと退散してしまった方がいいかと、庭の方を指さし掃除の続きしてきますと伝え退室することにした。
タヌキとキツネの化かしあいは心臓に悪い。
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後書き
あまつき久しぶりの更新です・・・
2009/10/6