第一訓






「今日もよく働いたぁ〜えらいぞ私」と自分で自分を労いながら山を下っていく。
薬草を採りに昼ぐらいから山に入っているわけだが、今はもう暗くなりかけている。半日山道を歩きっぱなしだったからか体力の無い私はもうくたくたで、足なんか棒なんか通り越して鉄棒のようになっていた。
家に着いた時にはすでに辺りは真っ暗だ。夕ご飯の用意しなくちゃと思うのだが、如何せん久しぶりの山散策で疲れきった私はそんなもん作る気力もなくなっていた。


「もぉいいー一食ぐらい抜いたって死ぬわけじゃないし寝よぉ」


最後の力を振り絞って布団を敷き死んだように眠ったのはつい一刻ぐらい前だったと思う。(正確な時間はわかんないけどね
いきなり大きな音が聞こえてきた。たぶん私の家の戸口を叩いている音だと思う。


どんっどんっどんっどんっ!!


「すいませーん!先生は居られるでしょうか!?」

「緊急の患者がいるのだ!」


緊急の患者だろうが何だろうがこっちは寝てんだよ!今日はマジで疲れたんだから!(←眠くて人格凶暴になってマス


「うるっさーい!今何時だと思ってんのよ!こっちはもう寝てたんだから!!」


あまりにもうるさい客だったから、嫌々ながらも布団から這い出て怒鳴りつけてやると


「すまぬ。しかし、一刻を争う傷なのだ。ご無礼は承知で我らに着いてきてほしい」


髪の長い青年(少年にちかいかな?)があまりにも必死な形相で頼み込んでくるものだから、怒っていたはずなのには思わずうなずいていた私。
それから急いで中に着替えに戻り、その辺にあったものを適当に着、仕事道具を引っつかんで私を呼びにきた人たちの後ろについて走った。
それはよかったのだが、重い仕事道具を持っているし元々体力の無いなんていうそれだけでもアウトなうえに昼間山を歩き回ってへろへろになっていた私はすぐに限界がきたのだ。
「もぉむりだー」とへたりこみそうになっているその時に、体が急に宙に浮いた。いや、宙に浮いたわけではなくて抱えあげられたようだ。


「すまぬがこちらも急いでいるので、失礼する」


そう言って長髪のやつが私を抱えて走っている。荷物はいつの間にかもう一人の人が持っていた。
それで、もちろんお姫様抱っこなんていうロマンチックなものじゃなくて荷物でも運ぶよかのような俵担ぎで抱えられているわけだけど・・・って、おいぃぃぃ!!確かに私は体力ないよ!?必死なのはわかるけど俵担ぎってどうよ!?これでも一応あんたらを診たあげるお医者様なんだからね!もっと丁重に扱ってほしいよ!
そんなこと思っていても揺れの激しい肩の上では、舌を噛まないように口を閉じているしかないので文句の一つも言えないわけである。


「着いた」


それから少しばかり走ったところに、目的地であろう古いお堂があった。


「―――・・・やっと着いた?」


そのころには文句を言う気力さえ残っていなかった私はその一言だけを何とかはき出し、よたよたと中に入っていく。
中に入った瞬間、自分の披露のことなんかすっかり吹き飛んだ。
広いお堂の中は大勢の患者で溢れかえっている。足が片方無い者、腹に風穴が開いている者、腕に切り傷がすこしある者など千差万別だがみなに共通しているのは、あきらかに普段生活しているうえですることの無い怪我だということだけだ。
最初、私を呼びにきた人を見て「侍みたいな格好をしているなぁ」ぐらいにしか思わなかったけどこの状況を見て確信する。
この人たちは攘夷志士だ









「お湯足りない!早く新しいの持ってきて!」

「清潔な布は!?何でもいいから急いで!」

「軽い怪我の人は後回しよ!重傷者から!」


私一人でこれだけの怪我人を診るのは並大抵なことではないけどやるしかないと腹を括り奔走している。


「次!!」


自分の目の前に来た患者を見るともうすでに虫の息で、あきらかに助かる見込みのない状態だった。
私は一度きつく目を瞑り、目を開けたときには顔面に無表情を貼り付ける。


「この人はもうムリよ。他の人をお願い」

「何でだよ!?こいつまだ生きてるじゃねぇか!」

「もう助からないわ。あなただってわかってるでしょ!」

「ふざけるな!お前それでも人間かよ!?こいつ見捨てるって言う気かよ!!」


私の言葉を聞くなり噛みついてきたのは怪我がほとんどなく手伝いをしてくれていた青年だ。


「おい!今はそんなこと言ってる場合じゃねえだろ!」

「でもっ」

「テメェは向こう行ってろ」

「っ・・・」


仲裁に入ってくれたのはあまり見たことがない服を着ている色気が漂う青年だった。
その青年に向かって一応お礼を言うと「テメェもぐだぐだ喋ってないでさっさと仕事しろ」と暴言を吐いて行った。
かなりムカついたけど、今は一分一秒をを争うので怒りを何とか納め仕事に集中する。


「他は?」

「向うの部屋にまだ一人重症なやつがいます」


広間の怪我人が一段落して、この部屋に入りきらなかったらしい怪我人のところに行くことになった。









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後書き
またまた無計画に新連載発射してしまいました・・・たぶん銀落ちの予定


2008/4/3