08.
昼ごろになり、やっとまともに機能してきたのか船上が騒がしくなってきた。
部屋に閉じこもっていた私にも分かるぐらいの喧騒が聞こえてきたので、あの量の酒を飲みほしておいて海賊と言うのはなかなか酒豪ぞろいだと思われる。
少なくてもうちの隊なら半分以上が使い物にならなくなっていただろう。
書きなぐっていた紙から顔をあげて声に耳を傾けていると、明らかにこちらに向かってくる足音が聞こえた。部屋の前を通り過ぎるだけとも考えられるがこの部屋の奥には普段使われない物が置いてある倉庫しかない。よってこの足音も持ち主はおそらく私に用事がある者だろう。
「邪魔するぜ。よ、!昼飯食いに食堂行くだろ?一緒に行こうぜ」
予想通り私に用事だったらしい。
声の主はサッチでノックしたもののほぼ同時と言って差し支えない程度の間隔でドアを開け、全くノックの意味をなしていないノックをしドアから顔を覗かした。
「ありがとうございます。ですが特に空腹と言う訳ではないので食事は結構です」
「は?お前朝飯もほとんど食ってなかったろ。そんなんじゃあ体持たないぜ」
体が小さくなったおかげか食べる量も格段に少なくなってしまい、今だって空腹感はなく食堂に行く理由はない。
頭を働かせるのに必要な糖分はコックから貰った角砂糖を時折舐めることでいけている。
「いえ必要な分は取っていますので」
動かない私の方にドカドカと歩みを進めてきたサッチは私の頭に手を置いたかと思うとかき回し始めた。
「お前はちっこいんだからもっと食え!さっさと行かないと飯なくなるぞ」
そして有無を言わさずに、その手は私の腕を捕まえて引っ張っていく。
こちらの言い分は全く聞く気のないくせにつかんだ腕はそれほどきつく握られていることはなく、がんばれは今の腕力でも振り払えるほどの力加減だ。だが、何故か振り払う気になれずされるがままに引っ張られていった。
着いた食堂は騒がしくあちこちから大声が聞こえてくる。
「コック!ピラフと魚のフライ頼む」
「おっしゃ!でお前さんは何にする?」
カウンターから身を乗り出し視線の位置を合わせてきたコックに少し考え「お勧めを少しで」と答えた。
すると、何故か頭を撫ぜて満面の笑顔をされた。
「あーデレデレだな、あいつ」
デレデレ?意味がわからずその言葉を呟いたサッチの方を見上げるがまたしても頭を撫ぜ「何でもねぇ」と言われる。
カウンター前で待つこと数分。注文したものが一斉に出来上がってき、カウンターに置かれていく。サッチのピラフが大盛りのなのはいいとして、私のだと思われるオムライスも大盛りなのはどういうことだろう。私は“少し”といったはずだ。しかも天辺に旗が立っておりハンバーグやポテトサラダが付け合わせのように添えられている。
「あの、これは・・・?」
「おう!白ひげ特性お子様ランチだ。しっかり食えよ」
輝かんばかりの笑顔で言い切られてしまえば量が多いだとか、お子様ランチは遠慮したいだとか文句も言えずにお皿を受け取るしか選択肢はない。
サッチは横で食える分だけでいいぞーと他人事のように(他人事なのだけれども)笑っている。
体が縮んでいる私にとってはお子様ランチが乗っているお皿は若干大きく重い。周りからみると危なかっしかったのかサッチが私の分のお皿まで持ってくれた。
適当に空いている席に着くと周りに座っていた人たちは「しっかり食え」や「ちっこいもんなー」等声をかけながら、頭を撫ぜていく。
・・・何故皆は私の頭を撫ぜるのだ?しかも昨日の酒盛りが終わってからと言うものやたらと構われる。おかげで早朝に甲板に出ていたが、構われすぎるため部屋に避難していたと言うほどだ。
海賊船の性質上子供が珍しいのだろうか?少年に近い年頃の男の子はいる。いわゆる見習いというものだろう。しかし少女(見かけだけなら)は私一人だ。しかも女性が極端に少ない。私が見た限りナース以外にいない。わざわざ海賊になりたい女性というのも少ないのだろう。
という結果から考えられるのは、ただ単に珍しいものに構いたいだけという、子供にとってのおもちゃのようなものだ。早々に飽きて放っておいてもらえると助かるのだがそれまでは我慢しよう。
「そういや、サッチだけかよ?」
「ああ、マルコは偵察に行ってんだよ」
「そういや島が近かったっけ?大変だな飛べるやつは」
ああ、昼食に誘いに来たのがマルコではなくサッチだったのはそういうわけだったのか。
ここに来てからは見張りも兼ねているのかマルコが私の面倒を見ていた。
マルコは不死鳥に変化し次の島まで偵察に行くのはこの船では当り前のことのようだ。有名な海賊らしいので上陸できるか調べに下見にいくのは戦術的にもある。避けれるものなら避けた方がいいものというのはどこにでもある。何も問題なければすぐに帰ってくるだろう。
大盛りにされたオムライスの山を少しずつ崩しながら周りの会話から状況を推測していく。
改めてこの船の厄介さを思い知らされた。海賊という悪党ながら頭の回る者もいるようで戦略も色々ありそうだ。これからも行動もより慎重に行かねばならないだろう。
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後書き
2011/03/26