07.
私はさっさと引き揚げたが、宴会はあの後明け方近くまで続いたらしい。
日の出とともに目を覚まし(海賊船で熟睡していたわけではないが)甲板に行くと死屍累々、たくさんの死体が・・・ではなく酔っ払いが転がっていた。
それを踏まないように気をつけ端の方までやってくると、後ろから誰か来る気配がし振り向くとマルコがいた。
「早いな」
「はい、癖みたいなものです」
昔から朝は早かった。下級兵のころは早朝訓練のおかげで、階級が上がってからは多すぎる仕事のためにと色々忙しかったからな。
「よく眠れなかったのかい」
「昔から眠りは浅い方だったのでお気づかいなく。マルコこそ早いですね」
「ああ、隣の部屋から出て行く音が聞こえたんでどうしたのかと思ってねい」
そう言えば、マルコは隣室だったっけ。
部屋がないからと物置代わりの場所に通されたのは、自分の隣という監視のしやすい位置だったからなのだろう。今もこんな早朝に怪しく思い着いてきたというところか。
「少し外の空気を吸いたくなって」
「そうかい」
海の方を見ている私と反対に、横まで来たマルコは手すりに持たれ海を背に空を仰ぎ見た。
「海に落ちんなよい」
「・・・落ちません。そのような心配は不要です」
「生憎だが落ちても俺は助けてはやれねぇぞ。泳げないからな」
何が楽しいのか眉をひそめ笑っている。
“海に落ちるな”とは子供扱いもいいところで、いい加減この外見もうんざりしてくる。子供の方が油断してもらいやすいとはいえ、デメリットの方が多いのは考えるまでもない。
それにしても、
「海賊と言うのは皆泳げるものだと思っていました」
「ああ、昔は泳げたな。ついでに言うとごく一部のやつを除いて泳ぐのはうまいぞ」
「はぁ、泳ぐという行為は覚えればできなくなるということは無いはずですが?トラウマや身体的ハンデを負う以外は」
泳ぎ方を忘れたという事象は聞いたことがない。
見たところ身体的ハンデというものもないはずだし、トラウマがあるのなら海の上で生活する海賊なんてしてられないだろう。
「いやーどっちでもねぇよい」
と言うことは、本当に泳ぎ方を忘れたのだろうか?聞いたことがなくともありえることなのか?実際この世界のことをほとんど知らない私に判断は難しい。たとえ泳げなくなっても再び練習すればいいだけの気がするが・・・
「悪魔の身の所為だ。異世界から来たはしらねぇだろうけど、この世界には悪魔の実ってもんがある」
その後悪魔の身について色々教えてくれた。
なるほど、その通りなら泳げなくなったという言葉も理解できた。悪魔の身、面白いな。
「マルコが泳げないということは理解できました。それで、もし差し支えなければどんな能力なのか教えてほしんですが」
「そうだな、さっき説明した動物系の幻獣種になる。モデルは不死鳥だ」
「不死鳥?再生をつかさどる伝説上の鳥のことでしょうか?」
「ああ」
そんなものにまでなれるとは、本当に悪魔の実というものは面白い。
不死鳥ということは性質を考えれば再生。死なない、あるいは死んでも生き返ると言うことなのだろうか?
確か不死鳥というものは百年に一度火の中に飛び込み焼死し、灰の中から幼鳥となり生まれ変わると言う伝説が残っていたはず。不死よりは再生というほうが正しい。
この場合の不死鳥というものはやはり再生と考えるのが自然だろう。ただし元が人間である故死んでも生き返るというのは疑問だ。さて、はたして一度死んだものが生き返るとそれは死ぬ前のものと同じといえるだろうか?とくに人間という生物は脳が発達し経験から人格が左右される。
伝説上の生き物と比べるのもばかばかしいが、目の前に不死鳥と同等かはわからないが、一応それになれるものがいるということは、この世界には不死鳥が生息しているのかもしれない。
とりあえず、不死鳥がいるかどうかは置いとくとして、人が不死鳥になれる場合、生き返るのか?生き返るとしてもそれは同じ人間といえるのか?という2点に疑問は絞られてくる。
不老ではないはずなので年老いてはいくだろう。見たところ歳は20歳以上ということはあるまい。性格は年の割には落ち着いているといえ、老練しているとはとても言えない。それに、今まで聞いていた話から推測するに白ひげより年上ということなさそうだ。
やはりここは一度、不死鳥になってもらい羽の一部でもわけ
「」
名前を呼ばれるとともに腕を掴まれた。誰にかと言うと、ここには私とマルコしかいない(それと少し向こうの方に酔っ払いがたくさん捨て置かれているが、今はいないと表記しても問題ない)のでもちろんマルコがだ。
「落ちるなと言ったばっかりだろ」
自分の状況を確かめてみると柵にもたれかかっていたはずの体が半分以上船の外側に出ている。自分の思考に没頭して、先ほど言われた通りに海に落ちようとしていたということになる。
さすがにこれは自分でも迂闊だったかと思う。
「すみません。迂闊でした」
「ああ、その考えたら周りが見えなくなるくせどうにかした方がいいな」
マルコはそう言うと、海に落ちるなと言った時のように面白そうに笑った。
以外によく笑う人物なのかと、彼の印象が少し変わった瞬間だった。
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20100905