05.





さて、と・・・
これからどうするべきか。

白ひげは私を娘と、家族と言ってこの船に乗せてくれるみたいだけど、正直ここにいて私のメリットになることはあるのか?
確かに衣食住の保証ができたが代わりに命の保証がなくなた。どこにいたって命の保証なんてものがあるとは思わないけど、ここは海賊船という常に気を張るべき場所で、同業者もしくはあるのならば軍に追われる日々になるのは間違いない。
あきらかに普通の一般人たちの生活環境から考えたら危険性は高いだろう。
向こうにとっても私を乗せておくメリットはあるのだろうか?あるとすればこの錬金術か・・・あのときは殺されないための保険として全て話し、錬金術も見せたが少し早まったかもしれない。たぶんこの世界にはこの力はなく、私しか使える人間はいないだろう。そうなると私にはそれ相応の価値が発生し、向こうとしては手放すのには惜しい存在だ。手放すぐらいなら、いない方がましとして殺される可能性もある。迂闊にこの船を降りるとは言いだせないということだ。やっかいだな・・・
こんなことになるのなら、一か八かで海に飛び込むべきだったか?いや、それはほぼ100%の確率で自殺になる。今はこれが最良だと思うしかないということか。
もし軍にあったら保護を求める、もしくは次の島についたら政府機関があれば逃げ込めばなんとかなるだろうか?この海賊は相当な規模、戦力を有しているのは間違いない。ヘタに助けを求めてはそれごと消し去られる可能性もあるし、迂闊に行動するのも頂けないな。さて、本当にどうしたものか・・・

元物置、現私の部屋になった家具がソファーオンリーという殺風景な場所でこれからのことを考えていたが、事態を好転できるような発想は浮かんでこない。
このような事態になった時の対処の方法などどこにもなかったし、予想もしたことがなかった。まあ、普通に考えてあるわけがないが・・・

もういっそこのまま流されてしまおうか。と投げやりな思考にたどり着いたところで部屋の扉がノックされた。


、少しいいか?」


声はたぶんマルコのものだ。
まだ他の人にはあまりあったことがないので確信できる具合ではないけれど、たぶんそうだろうと部屋に入る許可を出す。


「はいどうぞ」


入ってきたのは私の予想通りマルコだった。


「殺風景だな」

「そうですか。今のところ支障はありませんが」


言葉通り特に支障はない。一人になれるプライベートルームがあり、ソファーといえど今の私ならゆうに二人は寝ころべるほどの大きさがあるのだから。
ああ、そう言えば支障と言うほどのものではないけれど、少し困ることはあるかな。できれば紙と書くものがほしい。できれば机があれば完璧なのだけれども、そこまで贅沢は言えない。チョークは持っているけれど、この部屋に直接計算式を書くのは躊躇われる。
この世界に来た方法、あの時の私の錬成陣にどのような力が働いて時空、空間移動が可能となったのか研究がしたい。別に向こうの世界に戻りたいわけじゃないけれど、気になるものは気になってしまうということだ。


「でも、もしよければ紙と書くものがあればうれしいです」

「ん?そんなもんどうすんだよい?」

「研究するためです。この世界は色々と面白いことがありそうですし」


私の答えを聞いたマルコは顎に手を当て少し考えるようなそぶりを見せた。


「紙や羽ペンはあるが、机がねぇな・・・」


この世界は羽ペンか。面倒くさいが使えない訳じゃないしそれはいいか。


「机なら無くてもなんとかなります」

「そうかい。じゃあ次の島で買うとしてそれまで我慢だねい。他にも何が必要か考えとけ」

「あの、私この世界の通貨を持っていません」


金なら作れるが、この世界で金が価値を持っているかどうかわからない。


「そんなこと気にしなくてもいいよい。親父が必要なものは全部買ってやれって小遣いをくれたからな」

「よろしいんでしょうか?そんなことまでして頂いて悪い気がします」

「だから気にすんじゃねぇ、家族になったんだからこのぐらい当り前だろい」


これは、私の使う力の価値がそうさせているのか、それともただ単にこの海賊たちが人がいいのか・・・(海賊に向かって人がいいはどうかと思うけど)


「それでは遠慮なく。ありがとうございます」

「例なら親父に言え、全部親父からだ」

「いえ、これはマルコさんへのお礼です。私がここに来てから随分と世話を焼いてくださっているので」

「・・・気にすんな」


私を警戒しているため監視しているのかわからないけれどね。
あまり感情を表さない顔は考えを読み取りにくい。サッチならよくわかるのに・・・


「それで、ここにこられたのは私に何か用事でも?」

「ああそうだったよい。これから宴だ、の歓迎のな」


ああ、そう言えば最初白ひげがそんなことを言っていたような?
新人歓迎会というところか。


「それは、ありがとうございます」

「皆、騒ぐ口実が欲しいだけだから余計な気なんか使わなくてもいいよい」


さっきから外から聞こえてきている、騒がしい声はもしかしなくても、もうその宴とやらが始まっているのだろう。いくら建前といえど、主役は私のはずなのにすでに何人かは出来上がっていそうな気がする。
この機会に情報収集といきますか。酒が入れば口も緩むだろうし、やりやすいだろう。








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20100416